出家する=恋を降りること? 空蝉

 「源氏物語」に登場する女性には、出家する女性が非常に多いですが、今日は「出家」と「色」について少し考えてみたいと思います。
 空蝉とは、一夜限りの契りの後は光の君と情をかわすことを拒み続けたことで、かえって光君を引きつけた女性でしたが、夫亡き後尼となった彼女を光君は六条院に迎え入れます。
 出家し、尼となった彼女に、お正月用にと光君が送った衣装(玉蔓の帖)は青鈍色(あおにびいろ=ブルーグレー)の表着に梔子色(くちなしいろ=黄色)の衣というものでした。出家した女性に、梔子色?いいのか?とちょっと不思議だったのですが、光君が送ったのは、梔子色の聴し色(ゆるしいろ)、つまり薄い黄色で、これは出家した者にも着用が許されていた色だったようです。出家しても、内側に重ねる衣にはある程度の色が許されていたようですね。
 とはいえ、表に着用する衣の色は墨色(グレー)や青鈍色(ブルーグレー)という暗い色調に限られ、出家した尼は華やかな色から遠ざかります。
 「色から遠ざかる」・・・なんだか意味深な言葉です。女性が尼になるということは、現代人である私達が想像するよりもはるかに直接的に「私、色恋から遠ざかります(引退します)!」という宣言だったのかもしれません。
 瀬戸内晴美さんが、出家して「瀬戸内寂聴」さんになられた時、その理由の根底に「恋愛」があったというのを聞いた当初は、今より若かったこともあって言い知れない違和感を覚えたものですが、色恋からの引退→出家というのは、平安時代から続く案外「正当な」人生のコースのひとつなのかもしれませんね。
 その瀬戸内寂聴さん、ご自身が出家されて初めて、源氏物語が「出家の物語」であることに気づき、出家した自分だからできる現代語訳があると思ったからこそ、「源氏物語」の現代語訳に取り組まれたそうです。光源氏に愛された女性達が、愛されることの苦しさの余りに出家して、心が解放され「心の丈」が高くなっていく、源氏物語に描かれている女性達の出家とはそのようなものである、とのこと。「瀬戸内源氏」がベストセラーになったのは、そんな源氏物語の中の女性達に共感する現代女性が多かったから、かもしれませんね。
 それにしても、色恋からの引退をしようと思うと出家するしかないなんて・・・それだけ生活と色恋が密着していたということを「つややかな時代」と読むことも可能なのかもしれませんが、やはり「恋」の形はうつろうものととらえるのが正解のようです。「恋」がうつろっても、愛に形を変えて残る可能性を秘めている、そこに気づいてその変化をいかに受け入れてお互いが成長していくのか、そこに鍵があるような気がします。変化を受け入れながら「今ここにあること」を生きる女性でありたいな、と思う、今日この頃なのでした。
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by sound-resonance | 2010-03-07 12:44 | 色で読む源氏物語 | Comments(0)