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魔女の宅急便

引き続き映画ネタです。
このところの「ラプンツェル」祭りで「魔女」について考えていたからかどうか、改めて「魔女の宅急便」を見る機会がありました。
原作は角野栄子さん、スタジオジブリのアニメーション映画で有名ですね。

主人公のキキは13歳の満月の夜、魔女修行のため、まだ魔女の住んでいない町を目指します。新しい町を見つけたキキは、そこで1年間、自活しながら魔女修行をする必要があります。
どうやって自活するか。
自分の才能は「飛ぶこと」だと思ったキキは、その才能を使って、宅急便の仕事を始めます。

社会人の視点から見たら、最初の頃の彼女の仕事っぷりって、「その仕事、あかんやん」ってつっこみどころ満載で、はらはらしっぱなしです。例えば、猫のぬいぐるみの入った鳥かごをカラスにおそわれて、ぶんぶんふりまわして(かご、汚れるやん)、中身の猫をなくして(!!)、相棒のジジを身代わりにして、探しに行くところはぎりぎり許すとしても、見つかった猫のぬいぐるみは首がとれかけていて(!!!)ウルスラがいくら綺麗に繕ってくれたっていっても、それはもはや「破損品」ではないのか、とか、奥様がパイを焼けなくて困っているところを旧式のかまどに火をおこして焼いてあげたのは、偉かったにしても、雨に降られてびしょびしょのパイを届けて、「それ、ぬれてるじゃない」って言われて「中身は大丈夫」って、いや、たぶん中身もやばいし・・みたいな・・・まあ、13歳だし、天候については、彼女のせいではないんだけど、それでも、なんだか、見事な甘ちゃんっぷりです(笑)

でも、ある瞬間から彼女は「飛べなく」なります。

当たり前のようにできていたことが、できなくなる、これってものすごく怖いことですよね。

子どもの頃って、できなかったことができるようになる、知らなかったことがわかるようになる、ことの連続で、「できなくなる」ことってめったにありません。
当たり前にできてたことって、当たり前にできてたから、いざできなくなると、「どうやってやってたか」っていうのがわからなかったりします。
キキも「どうやって飛んでいたのかわからない」って画家であるウルスラに打ち明けています。

飛べないと、宅急便の仕事ができない。でも、宅急便の仕事以外の仕事を見つけて、自活できていけばそれでいいのか、といえばそうでもない。飛べないっていうことは、彼女にとって人生のすべてが楽しめないということ、すべてを失うということ。それが、「才能」で、それをもって生活するということが「生業」なのかな、と思ってみたり。

魔女は魔女の「血」で飛ぶ、と言うキキの言葉に「魔女の血、絵描きの血、パン職人の血。神様か誰かががくれた力なんだよね。おかげで苦労もするけどさ」とウルスラは答えます。
ちなみに英語では「血」が「spirit」と訳されていて、どっちがわかりやすいかは別として、どちらにしても、自分自身と切っても切り離せないもの、なんでしょうね・・・

彼女が「飛べなく」なったきっかけはなんだったのか。
それは「嫉妬」だと指摘してある本があって、どきっとしました。

自分と同い年なのに、「働く」必要のない女の子達への嫉妬?
いや、人を何十人も乗せて、自分より何十倍も役に立つ飛行船への嫉妬。

子どもの頃の「自分はできる」っていう全能感の世界から飛び出して、人やモノとのかかわりの中で、何かと自分を比較することで、自信をなくし、自分の立ち位置を譲り渡してしまうということが、才能を失うということ。

では、彼女が再び飛べるようになったきっかけはなんだったのでしょうか。

原作にはないエピソードのようですが、飛行船の事故で危機に陥ったトンボを救うために、彼女は飛びます。助けたいという心、それがその時点で、友情だったのか、愛情だったのかはわかりません。でも、一つ言えることがあるとしたら、人は、人とのかかわりの中で、才能を見失うこともあるけれど、同時に人とのかかわりの中で、才能を再発見する可能性を秘めているということ。「比較」から抜け出て、その瞬間に自分に何ができるのか、に真剣にフォーカスすること、それが、才能を本当の意味で「自分のものにする」「制する」ということにつながるのかもしれません。
才能って、人と人とが関わるためのツールで、その中で磨かれていくもの、なんですね・・・

再び飛べるようになったキキは、再び宅急便の仕事を始めます。たぶん、これまでの「なんとなくやる」感じからもう少し意識的な仕事っぷりになるんでしょうね。

この映画って、子ども向けにみえて、仕事をしている大人にかなり共感できる部分があるんじゃあ・・・!?考えてみると、「ルージュの伝言」とか「やさしさに包まれたなら」とかユーミンの歌使ってるってことは、案外ターゲットは、大人なのかもしれないですね。キキは13歳で、子どもから大人への成長っていうテーマもあるのでしょうが、大人になってからも、こういう危機って、仕事をしていると、周期的におそってくるもので、見舞われている最中は、絶望的な気分に陥ったりもします。でも、それを、次のステップに向かうチャンスなんだととらえることもできるのかもしれませんね。失われたものがあったとしても、必ず次の何かがやってきます。ゆっくり、時間をかけて、人生を信頼しましょう。自分に対する愛も忘れずに、ね。

魔女の宅急便(1989)

by sound-resonance | 2015-01-27 07:07 | 観る・読む・聴く