人気ブログランキング | 話題のタグを見る

お金の音

暑いですね。
大阪は、日中気温33度だったそうで、息がしずらい、呼吸困難になりそうな夏日が続いております。
そんな中、ふと思いついて文楽を見に行ってきました。普段は2部構成のことが多いですが、夏休みは特別公演ということで、3部構成となっております。今回は、3部目、サマーレイトショーを見てまいりました。

題目は「金壷親父恋達引(かなつぼおやじこいのたてひき)」。モリエールの「守銭奴」という戯曲を元に、井上ひさしさんが脚本を手がけたもの。この脚本、当初ラジオ放送され、その後テレビ放送はされたもの、舞台上演は今回が初めてという「幻の作品」なんだとか。井上ひさしさんというと、「ひょっこりひょうたん島」が超有名な作家さんですね。といっても、実のところをいうと、私自身はリアルタイムの「ひょっこりひょうたん島」は知らないんですが、「波をちゃぷちゃぷちゃぷちゃぷちゃぷかきわけて~♫」っていうテーマ曲はなんだか印象的で、知っている方も多いのではないでしょうか。井上ひさしさんって、小さい頃から、周りにあった本を手当たり次第読んでいたようですが、言葉の使い方が絶妙というのか、言葉で、世界観を作り出せる希有な人だなあ、という感じがします。

さて、舞台の方は、呉服屋、金仲屋金左衛門という「お金に恋しちゃった」男を中心に話が展開していきます。金左衛門は普段はドケチ生活を極めている男やもめで、土中に隠した金の入った壷をたまに掘り返しては、眺めるのが、唯一?の楽しみになっています。そんな金左衛門のところに、縁談が舞い込んできます。娘の持参金に目がくらんだ金左衛門はその話を受けようと思い立ち、息子と娘に話をしますが、実は、縁談のあった娘、お舟というのが、金左衛門の息子万七と相思相愛の仲であり、なんだか事がこんぐらがっていきます。娘のお高にも縁談(後妻)が舞い込み、その相手が裕福な呉服問屋の主人であったことから、父である金左衛門はその話を受けようとしますが、お高にも想い人(番頭の行平)がいたりなんかします。

お話大幅に省略しまして、万七とお舟、父の意向に逆らって、想いを遂げるためには駆け落ちしかない!というところにまで話が行き着きますが、先立つものがない・・・というところで、豆助という手代が、金左衛門の土中の「壷」のことを教えてくれます。この壷、もらっていっちゃえ!ということで、壷を土の中から掘り返し、逃げようとしますが、その直後、実は妹のお高も壷のことを知っていて、同じく番頭の行平と駆け落ちするために、壷を掘り返そうとしたところを金左衛門に見つかってしまいます。壷が盗まれたことを知った金左衛門はあわてふためき、関係者全員招集、というところで、大どんでん返しが!!
なんと、万七の想い人お舟と、お高の想い人行平は生き別れた兄妹で、その二人の父はお高が金左衛門(父)から後妻に嫁げと言われていた裕福な呉服屋、京屋徳右衛門だったのです!!ああ、ややこしい・・・というか、舞台を見ていれば、理解は簡単なんですけどね。言葉で説明するのは案外難しいもんですね・・・(笑)
この、「実は生き別れた親子だった!」とか「実は、兄妹だった!!!」とかいう展開って、ものすごく文楽っぽいというのか、定番のパターンだったりするので、この辺は原作から日本の文楽っぽい感じに改ざんしてあるのかな、と思ったら、どうも原作の方も同じ展開みたいです。モリエールの原作の方は、当時興行的には大失敗だったそうですが、この「日本的」オチがフランスでは受けなかったのかなああ。。。???

ま、それはさておき、お互い死んだとばっかり思っていた兄、妹、父が生きていたことがわかり、再び会えた喜びを分かち合った3人。万七は壷を父親に返すことを条件にお舟との仲を許してもらいます。
兄妹にとっては、母、京屋徳右衛門にとっては妻は、お舟と一緒に暮らしており、これも健在、早くこの喜びを報告せねば、ということで、3人+その想い人である万七、お高は連れ立って出ていき、後には、金左衛門だけがぽつねんと残されます。

だが、しかし。金左衛門はこの状況をむしろ喜んでいる様子。「やっと二人きりになれたね」と彼は金のつまった壷に話しかけます。もう人間の娘には恋をすまい、私にはお前(壷)がいてくれればそれでいいよ、みたいな。
こうして、各々がそれぞれの想いを遂げ?、めでたし、めでたし、で幕となります。

土の中から壷を取り出しては眺めるシーンで、金がちゃりちゃりっと鳴る音を「カリョウビンガの鳥の声もそなたの音にはかなうまい」なんて言う金左衛門。極楽浄土に住んでいて、その美声は仏の声を表すとされるカリョウビンガの声よりも、お金が触れ合うちゃりちゃりという音が素敵、なんてうっとりしている金左衛門は俗物の極みとして描かれています。お舟を後妻として迎え入れる初顔合わせの日にも、珍しく酒を用意しろと番頭に命じますが、水を足して割増しておくことを命じることを忘れない、お酒のあても、なんとなくにぎやかに見栄えさえ整っていればよい、高級なものは必要ない、という徹底ぶり。

お金って一体なんなんでしょうね・・・
お金は裏切らない、なるほどなるほど。
お金があれば、いざという時に安心、なるほどなるほど。
でも、ホントのところを言うと、究極の危機が訪れた時には、お金は案外空腹、気持ち、その他もろもろを満たしてはくれなかったりもするもんです(笑)
くすっと笑うために、一時間ちょいの文楽に見にわざわざ足を運び、チケットを買った私は、金左衛門からみれば「ばかの極み」でしょうが・・・・(笑)世の中のありとあらゆる美しさに触れるために、上手にお金を使っていきたいなあ。(とか言って自分の無駄使いを全肯定。ふふふふふ)

夏休み文楽特別公演8月9日まで

by sound-resonance | 2016-08-07 19:40 | 観る・読む・聴く