カテゴリ:色で読む源氏物語( 11 )

紫のゆかり 

 今日も、志村ふくみさんの「色を奏でる」から・・・

 『紫式部というひとは、ほんとうに紫根を染めたことがあるのではないかと、ときどき私は考える。その当時の宮廷の女性は、染殿などで山野から摘んできた草花や外来の植物で、実際に染めていたようである。
 紫の上はとくに染色が上手だけれど、花散里もなかなかいい色を染める、と源氏がほめるところがある。
 じっさい「源氏物語」は、その真髄ともいうべき部分が、紫という一つの色彩で組み立てられている。物語は紫とともに進行し、運命をともにする。父桐壺帝をはじめ、母の桐壺の更衣、藤壺、その姪である紫の上など、すべて紫のゆかりの人々をひきそろえ、その中心に光り輝く源氏の君をおく。
 紫と黄はお互いに映え合う絶妙の補色関係である。
 紫草の根が万葉のころより染められ、歌によまれ、「古今集」などでは、「紫のひともと故にむさしの野の/草はみながらあはれとぞみる」とうたわれていたことを思うと、古代の人々は紫草の根で染めた布や糸を紙につつんでしまっておくと、その紙にしみこんでうつってしまうことをよく知っていたのであろう。
 その当時の人々が、紫という色をもっとも高貴な、理想の色として考え、物語の中にもしばしば衣装や調度の色彩として登場させているが、「源氏物語」のように人物の性格や運命と深くかかわり、物語全体の骨子としての造形的な力を、一つの色彩にあたえるということは、世界にも希有なことではあるまいか。
 紫式部という人が、色彩、とくに紫という色の奥にひそむ神秘的な力と、それを感得する人間の魂の在り方を一つの長編小説に構築する天才的な能力をもっていたということであろうか。
 紫草の根をもみ出して染液をとり、その液で染めたものを、椿の灰汁で媒染すると美しい紫色が得られる。そのとき、六十度以上に液を熱すると、たちまち美しい紫は影をひそめ、鈍い灰色がかった色に変化してしまう。その色を滅紫、けしむらさきともいう。
 幻の巻から雲隠れと、紫の上と源氏は相次いで滅紫の世界に消えてゆく。滅紫は、鈍色、喪の色につながる。紫草の生物としてのなりゆきと、物語の進展と終焉が、このように結実していることにも、紫式部の天びんの資質を思わずにはいられない。』

 染織家として、日々自然の色と携わっておられる志村ふくみさんも感覚的に「源氏物語」が色によって構築された物語であることに気づかれているんですね。
 紫という字は「ゆかり」とも読みます。紫=ゆかり=縁。「源氏物語」は、光源氏という個性が、生涯にわたって出会う人々と縁を結び、そしてほどいていく、人と人の「間(ま)」に起こる物語を描いたものなのかもしれませんね。
 人と人の「間(ま)」には苦しみや喜びなどの両極端な感情がうずまきつつ、それが「うつろうもの」であると気づけば「癒し」がやってくるのだと思います。まあ、なかなかそんな心境にはなれませんけどね・・・だから光源氏も一生のほとんどを「色恋」の世界に生きたわけで・・・「色恋」を超えた「愛=間」の世界に到達するには、まだまだ修行が必要、か、な!??
 
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by sound-resonance | 2010-09-14 00:47 | 色で読む源氏物語 | Comments(0)

おまけ 色と恋について

 色で読む源氏物語シリーズを書き始めた頃、読んだ1冊の本があります。「音に色が見える世界〜『共感覚』とは何か〜」という本。著者の岩崎純一さんは、ご本人が共感覚の持ち主で、当事者の視点から共感覚について解説されています。
 また、日本文化の原風景というのが、元々共感覚的であったという説を提示されているのですが、この本によると、縄文、弥生時代の日本語には、シロ、アヲ、アカ、クロの4語以外の色彩語が見あたらないそうです。色相の違い(赤や青の違い)を「色の違い」と認識せず、彩度と明度の違い(鮮やかか淡いか、明るいか暗いか)を「色の違い」と認識していたと見られる、とのこと。奈良時代を経て、平安時代から江戸時代末期までの色彩語としては、「黄」「緑」が登場しましたが、元来、「赤」「青」「白」「黒」の基本四語以外の色の名前は、ほぼすべて動植物、花鳥風月に由来する、と書かれています。
 では、日本人が色の違いに無頓着だったというと、それは全く逆で、例えば山吹の花の色を、「黄色」という単純な色相名に還元するなんてとんでもない感覚であって、山吹の花の色は、あくまでも、山吹の花の色、だから山吹色と呼ぼうという優れた色彩感覚があったからこそのことだったのだと思います。
 同じ「紫色」でも、藤色、紫苑、菖蒲色など、いわば花の数だけ色がある、その感覚は、自然をありのままに見、受け入れようという感覚なのだと思います。そして、大切なのは、日本人が「色」を「うつろうもの」として見ていたこということ。もし同じ花を観察していたとすると、花の色は、刻一刻と移り変わっていくことでしょう。つぼみから、盛りを迎え、やがて朽ち果てていく、その「うつろひ」や「ゆらぎ」こそを「色」と感じていた日本人の感性ってとても素敵ですね。
 サウンドレゾナンスでも、声を絶対不変的なものととらえるのではなく、あくまでも、「瞬間瞬間にうつろうもの」ととらえています。そういう所は、ちょっと似ているかも。
 
 それともう一つ興味深かったのは、「色恋」についての記述。
 「色」の字は、ひざまずく人の上に人があることを示す会意文字で、男女の情愛そのものを指しており、その字を「いろ」に当てた、日本語の「いろ」は異性のことを離れてはありえないのだ、とのこと。だとすると、白黒で読む(まあ、私の見るのは、現代語訳であり、マンガであるわけですが)「ザ・恋バナ」である源氏物語やその登場人物が総天然色に彩られて「感じられる」のも、さもありなん、というところですね。
 そして、「色」は「うつろいゆく」もの。うーん、達観。

 光源氏を「イエロー」だ!などと、スペクトル上に分断してしまったことにちょっと反省しつつ、今回はあえて「西洋的」な解釈の上に乗っけてみました。現代人的解釈のひとつとして、お許しくださいませ。
日本人男性として、言葉にしがたい世界をあえて言葉にして、非共感覚者に伝えようとした著者に敬服、感謝。
「匂(にほひ)」についての考察もとても面白かったです。興味を持たれた方は一読あれ。

 音に色が見える世界 「共感覚」とは何か 岩崎純一著 PHP親書(2009) 
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by sound-resonance | 2010-03-09 18:19 | 色で読む源氏物語 | Comments(2)

出家する=恋を降りること? 空蝉

 「源氏物語」に登場する女性には、出家する女性が非常に多いですが、今日は「出家」と「色」について少し考えてみたいと思います。
 空蝉とは、一夜限りの契りの後は光の君と情をかわすことを拒み続けたことで、かえって光君を引きつけた女性でしたが、夫亡き後尼となった彼女を光君は六条院に迎え入れます。
 出家し、尼となった彼女に、お正月用にと光君が送った衣装(玉蔓の帖)は青鈍色(あおにびいろ=ブルーグレー)の表着に梔子色(くちなしいろ=黄色)の衣というものでした。出家した女性に、梔子色?いいのか?とちょっと不思議だったのですが、光君が送ったのは、梔子色の聴し色(ゆるしいろ)、つまり薄い黄色で、これは出家した者にも着用が許されていた色だったようです。出家しても、内側に重ねる衣にはある程度の色が許されていたようですね。
 とはいえ、表に着用する衣の色は墨色(グレー)や青鈍色(ブルーグレー)という暗い色調に限られ、出家した尼は華やかな色から遠ざかります。
 「色から遠ざかる」・・・なんだか意味深な言葉です。女性が尼になるということは、現代人である私達が想像するよりもはるかに直接的に「私、色恋から遠ざかります(引退します)!」という宣言だったのかもしれません。
 瀬戸内晴美さんが、出家して「瀬戸内寂聴」さんになられた時、その理由の根底に「恋愛」があったというのを聞いた当初は、今より若かったこともあって言い知れない違和感を覚えたものですが、色恋からの引退→出家というのは、平安時代から続く案外「正当な」人生のコースのひとつなのかもしれませんね。
 その瀬戸内寂聴さん、ご自身が出家されて初めて、源氏物語が「出家の物語」であることに気づき、出家した自分だからできる現代語訳があると思ったからこそ、「源氏物語」の現代語訳に取り組まれたそうです。光源氏に愛された女性達が、愛されることの苦しさの余りに出家して、心が解放され「心の丈」が高くなっていく、源氏物語に描かれている女性達の出家とはそのようなものである、とのこと。「瀬戸内源氏」がベストセラーになったのは、そんな源氏物語の中の女性達に共感する現代女性が多かったから、かもしれませんね。
 それにしても、色恋からの引退をしようと思うと出家するしかないなんて・・・それだけ生活と色恋が密着していたということを「つややかな時代」と読むことも可能なのかもしれませんが、やはり「恋」の形はうつろうものととらえるのが正解のようです。「恋」がうつろっても、愛に形を変えて残る可能性を秘めている、そこに気づいてその変化をいかに受け入れてお互いが成長していくのか、そこに鍵があるような気がします。変化を受け入れながら「今ここにあること」を生きる女性でありたいな、と思う、今日この頃なのでした。
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by sound-resonance | 2010-03-07 12:44 | 色で読む源氏物語 | Comments(0)

朧月夜→オレンジ

 色で読む源氏物語、最終回の今日は「朧月夜」です。
 朧月夜というと、光君とのスキャンダルによって彼を失墜させ須磨へと追いやったファムファタールのイメージがありますが、なぜか私は彼女のことが好きです。物語中の(この時代の)女性には珍しく、自分の意志を持っているように感じるから。
 身体からわきおこる感情に正直で、自分の感性に忠実に生きた独立した女性、朧月夜は、オレンジのイメージです。
 右大臣の娘である彼女は、東宮の元に女御として入内する予定でしたが、光君と関係したことで、それがままならなくなります。代わりに、後に尚侍(ないしのかみ)となり、帝の寵愛を受けることになります。形式上のことだったかもしれませんが、仕事を持つ女性となったわけですね。帝の寵愛を受けながらも光君との関係も続けていたことが発覚して、恋人である光君は、須磨へと追いやられてしまいました。
 そこで、彼女は反省したか?いや、反省したのかどうかは定かではありませんが、光君が須磨から再び帰京し、帝が出家した後、再び光君との関係を持ってしまいます。ダメじゃん!朧月夜!!と言いたい所ですが、彼女が一番惚れていたのは、やはり、光君だったのかもしれません。自分の気持ちに正直な朧月夜。正式な結婚はしませんでしたが、光君も彼女に自分に似た何かを感じて彼女に惹かれていたのではないでしょうか。一方の朧月夜の方は似た者どうしの自分たちは、結婚は向かないと、思っていたのかもしれませんね。
 最終的には、彼女は、自分を愛してくれた帝の後を追って出家します。光君には何も告げないで。何も知らなかった光君はその事実を知って、驚き嘆きます。最後まで、彼女には、翻弄されっぱなしの光君なのでした。

 色で読む源氏物語、ひとまず、おしまい。

 ☆次回は、おまけその一「空蝉」を取り上げます。
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by sound-resonance | 2010-03-05 19:04 | 色で読む源氏物語 | Comments(0)

花散里→グリーン

 色で読む源氏物語シリーズ、今日は「花散里」です。花散里の名前は光君が詠んだ「橘の香をなつかしみほととぎす花散里をたづねてぞとふ」から来ているのですが、彼女が若い頃に住んでいた麗景殿には橘の花の香りが満ち満ちていました。
 橘の花自体は、白くて小さくてどちらかというと地味な花のようで、それも、花散里のつつましい性格をよく表していると思うのですが、橘といえば、肉厚の葉の緑が特徴的でしょう。年中葉を落とさない常緑の橘は古代から不老不死の木とされていたそうです。不変性からくる安定感は、グリーンの質であり、花散里の人となりをよく表していると思います。彼女は、落ち着きと安定感を持ちながらも人の立場に立って共感できる心の優しい女性だったのではないでしょうか?恋のアバンチュールの相手としてはイマイチときめかなかったようで、夫婦として愛し合うことは早くから途絶えていたようですが、心安らぐ相手として、光君は彼女の前では心から寛ぐことができたのでしょう。だからこそ、光君は彼女のことを大切にし、信頼し、安心して夕霧の養育を任せたのでしょうね。
 ちなみに橘の花の香りはシトラス系のさわやかな香りだそうです。これも、後に六条院の夏の町の女主人となり「夏の御方」と呼ばれた花散里にふさわしい香りですね。
 
☆次回は「朧月夜」を取り上げます。
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by sound-resonance | 2010-02-28 11:39 | 色で読む源氏物語 | Comments(2)

末摘花→レッド

 色で読む源氏物語シリーズ、今日は「末摘花」です。
 「末摘花」とは、紅花のことで、彼女の鼻が「赤い」ことから光源氏がつけたあだ名ですが、私の彼女のイメージも、赤(そのまんまやん!)未分化な赤、原始の赤、純粋無垢なエネルギーとしての赤色を感じます。
 彼女は、正真正銘の「深窓の令嬢」、言い換えると「大きな赤ちゃん」です。家柄は抜群に良いのですが、度を超えて古風、世間知らずな女性で、さすがの光君もちょっと閉口気味。でも、光君の訪問が久しく途絶えていた間も一途に彼を想い、待ち続ける様には、女のずる賢さのようなものはひとつも感じられません。そんな彼女のひたむきさには光君も感銘を受け、六条院に迎え入れ、終生面倒を見るのです。
 見目麗しい女人達がたくさん登場する源氏物語の中で、ダントツで「醜い」女性として登場する彼女を見捨てなかった光君、かろうじて点数アップ、というところでしょうか(笑)でも、はっきり「似合わない」とわかっていながら、なまめかしい柳襲(たて糸を萌黄、横糸を白で織る)の衣装を選ぶのは、ちょっと意地悪ですよね・・・。a0155838_20582878.gif
 色相はイメージです、色見本の館より引用

☆次回は「花散里」を取り上げます。
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by sound-resonance | 2010-02-16 21:02 | 色で読む源氏物語 | Comments(0)

明石の御方→クリア:再びすべてを含む色

 色で読む源氏物語シリーズ、今回は「明石の御方」です。
 明石の御方の私のイメージは、「白」です。彼女が京にあがってきてから、後に六条院の冬の町に住むところから、かもしれませんが、光の君も、彼女に白と濃い紫の襲の衣装を選んでいます。
a0155838_1961313.gif この最も高貴な色の組み合わせをあの人なら着こなせると光の君に言わしめた明石の御方のことを、紫の上は生涯最大のライバルとして、意識していました。
 サウンドレゾナンスの中では、白は取り扱いませんが、オーラソーマのボトルにはクリア(透明)を含むボトルが何本かあります。ここでは、白をクリアとしてとらえていきたいと思います。
 クリアは、マゼンタと同じくすべての色を含みます。 父親が見た夢のお告げによって、将来の国母の母となるべく、明石にありながら、京の深窓の姫君に負けずとも劣らない教養を身につけた、美貌の姫であったのに、身分が低いが故にそれを補うためか、人一倍プライドが高かった彼女の事を、「六条御息所に似ている」と光君は言っています。マゼンタの六条御息所と、クリアの明石の御方が似ているというのは、ちょっと面白いですね。
 朧月夜とのスキャンダルによって京を追われた光君にとって、明石で出会った明石の姫君は、まさに悲しみの中に差し込んだ一条の光のような存在だったのではないでしょうか?父親から、言い聞かされていたことだとはいえ、「国母を産む」という確固たる使命を持っていた彼女に、光君の方も運命的なものを感じたに違いありません。
 夢のお告げ通り、彼女は女の子を産み、その子は、国母(帝の母)となりました。これまた出自が低いが故に我が子を紫の上に預けなければならない、という悲しい出来事もありましたが、我が子が女御として入内する際には、世話役として、我が子(明石の女御、のちの中宮)に付き添うことを許されます。最大のライバル、紫の上とも、明石の中宮を間に友好的な関係を結んでいきます。劇的な運命に流されているように見えながら、出しゃばることなく、常に自分の役割に徹し、最終的には穏やかな確固たる自分の立ち位置を築いていった彼女には、女性のしなやかな強さを感じてしまいます。

☆次回は「末摘花」を取り上げます。
 
襲の色はイメージ、色相は近似色です。色見本の館より画像をいただきました。
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by sound-resonance | 2010-02-09 20:43 | 色で読む源氏物語 | Comments(0)

六条御息所→マゼンタ:すべての色を含む色

 色で読む源氏物語シリーズ、今日は、六条御息所です。
 私が、色のイメージで源氏物語を読んでみたら面白いかも!?と思ったのは、光源氏と紫の上の関係が色で浮かんできたからで、だったら、あの人は何色?あの人は?とイメージをふくらませていくのがとても楽しかったのですが、六条御息所が一体何色なのかについては、なかなかイメージがわいてきませんでした。彼女は一体何色だろう?考えること、幾星霜。あ!マゼンタだ〜!!思いついた途端、イメージがどば〜っと浮かんできました。
 ということで、マゼンタの六条御息所について。
 六条御息所は、先代の帝の妻で、帝亡き後、極々早い時期に光源氏の恋人となった女性です。家柄、地位、財力、美貌、教養もすべてを持ち合わせた高雅な女性として描かれています。それだけにプライドも相当なものだったでしょう。光源氏よりも年上でしたが、葵の上のようにそれがネックになることはなく、むしろ子どもを産んだ経験がある母性をも持ち合わせた大人の女性としての彼女に光源氏は最初はどんどん引き込まれていきます。
 彼女の方も随分年の離れた光源氏のことを「お子ちゃま」扱いする場面もあったのではないでしょうか。むきになってことさら大人ぶる光君。最初は一方的に光君が押しかけていたのかもしれない二人の関係も、いつしか深いものになるにつけ、六条御息所も光君を深く愛するようになります。
 深く愛すれば愛するほど、彼を丸ごとそのまま受け入れたいという思いと、彼の若さ故の至らなさを補いたいという思いに引き裂かれていったのではないでしょうか?そこは、プライドの高い女性の切ない所。マゼンタとは本来、無条件の愛を意味しますが、恋人となった時から一人の女性として、彼を丸ごと受け入れたいという思いと、先代の帝の妻だった自分にふさわしい恋人になってもらわないと困るという思いが常に交錯していたのではないか、そんな気がしたりします。
 光君もまだ、若かった。そんな彼女との関係を重苦しく感じるようになり、徐々に六条御息所の所に通う足が遠のきます。特に彼は母親の保護する感覚を知らずに育っています。彼女の「保護し、包み込む感じ」が慣れない居心地の悪い空恐ろしいものだったのかもしれません。彼の気持ちが冷め、彼が離れていくのを確認することは、彼女のプライドにとって何よりも耐え難いものでした。
 ここで、マゼンタが、ポジティブからネガティブに反転します。
 すべてを包み込む光が、すべてを呑み込む闇へ。
 彼女自身もその闇に呑み込まれ、彼女のパワーは彼女のコントロールを離れます。そして、彼女の魂は生き霊となって失った愛を求めて闇夜をさまようのです。
 切ない、切なすぎる〜!
 無意識のうちに、葵の上の命を奪ってしまった六条の御息所の生き霊はひたすら怖いですが、彼女が髪の毛に染みついた護摩の香りに、知的であるが故に自らの生き霊がさまよいでたことに気づき、深く恥じ入るシーンには、なんだか同性として切ないものを感じてしまいます。
 光君が、彼女を包み込めるくらい十分に大人の男性だったなら、彼女の魂はさまよわずにすんだのに。でも、そうだとすると、最初から六条御息所の所に押しかけてこないか・・・

☆次回は「明石の御方」を取り上げます
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by sound-resonance | 2010-02-06 15:02 | 色で読む源氏物語 | Comments(0)

紫の上→バイオレット

 色で読む「源氏物語」シリーズ、今日は「紫の上」です。
 紫の上は、そのものズバリ、バイオレット(紫色)のイメージです。
 光源氏の憧れの君、藤壺(そういえば、藤の花も紫色ですね)の縁(ゆかり=紫)の者であり、童の頃に光源氏に引き取られた、紫の上。物語の中で、彼女は美しく、教養にあふれ、気配りや心遣いを持って物事を采配できる、誰もが愛さずにはおられない理想の女性として描かれています。
 この世における彼女の使命は、光君を愛することであり、彼とともにあり、彼と一心同体であること。彼なくしては、彼女はありえません。そんな彼女を見て、光君は癒されます。彼にとって、彼女は、どんな女性の元を訪れても、最後に帰る「拠り所」であり、そのことを自覚していたからこそ、彼女は実質上の北の方としての誇りとプライドを保っていられたのでしょう。
 光君が、彼にまつわる女性達に衣装を選ぶシーンがあるのですが(初音)、彼は、紫の上のためa0155838_14574656.gifに葡萄染め(赤紫)と紅梅色(濃いピンク)の襲の衣装を選びます。このことからも、彼女が彼にとって「癒しと愛の存在」だったことがわかるような気がします。彼女は、六条院の春の町の女主人であり、まさに「この世の春」を体現した女性であるといえます。
 でも、果たして紫の上は「彼女自身」を生きたのでしょうか?
 「理想の女性」「完璧な女性」とは誰にとっての「理想」「完璧」だったのでしょうか?
 バイオレット(紫の上)とイエロー(光源氏)は、補色関係にあります。
 幼少期から光源氏の元で、彼にとっての理想の女性として育てられた紫の上は、光源氏という男(=イエロー)あっての女(=紫)であり、彼の中の理想の女性、あるいは彼の中の女の部分をこの世で体現した「人形(ひとがた)」でしかなかったのです。(またもやちょっと心理学的かな・・・)
 これほど愛し、愛され、癒し、癒されていた二人でしたが、紫の上はあくまでも、実質上の北の方であり、光源氏は彼女を正室とはしませんでした。明石の方の産んだ女の子(後の明石の女御)を引き取り育てはしますが、紫の上自身は子どもを授かりませんでした。深読み、暴走ついでに言うと、光源氏は自分自身(=紫の上)とは「夫婦」になれないし、ましてや、自分自身と愛し合っても、子どもなんて産まれるはずもありませんね。
 後に光源氏が、女三宮を正夫人として迎えた時、紫の上は改めて己の存在の危うさを目の当たりにさせられ、一心同体だったはずの光源氏との間にもはや埋めることのできない溝を感じるようになります。彼女は、現世に生きることに虚しさを感じ、出家を望みます。胸の痛い出来事ではありますが、ようやく、彼女が本当に「彼女自身」を生きようとした瞬間だったのかもしれません。
 でも。
 光源氏は、彼女の出家を許しませんでした。
 最後の最後まで、光源氏のために、「献身的に」生きた紫の上、なのでした。

            襲の色相は近似色です。色見本の館より引用 

 ☆次回は、六条御息所を取り上げます。
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by sound-resonance | 2010-02-03 22:17 | 色で読む源氏物語 | Comments(0)

葵の上→ブルー

 源氏物語の登場人物を色のイメージから解釈するシリーズ、今日は「葵の上」です。
 タチアオイなど、葵科の花の色は、赤、ピンク、白、紫、黄色など多彩で、必ずしも青というわけではないようですが、今回は、「アオイ」という音の響きから、彼女をブルー(青色)の人として、とらえてみたいと思います。
 彼女のブルーのイメージは、ちょうどタロットカードの「Ⅱ.女教皇」のイメージと重なります。
 左大臣の娘であり、未来の帝(東宮)の妻(女御)として入内するべく、気高く、大切に大切に育てられてきたのに、臣下である光源氏の元に嫁ぐことになった彼女。もしかすると、光源氏本人のことは出会った瞬間から好ましく思っていたのかもしれませんが、小さい頃から、疑うことなく彼女の中に浸透していた、厳格な「女御になるはずの自分」というルールの外に出て彼を愛することは彼女にとってはとても難しかったはず。彼女の方が年上だったということも、それを助長していたのだと思います。
 プライドが高く、頑なな彼女の心をほぐすには、まだ光君は若すぎました。年上の妻を疎ましく思い、他の女性の所に行ってしまいます(うう、なんて奴・・・)そんな彼の後ろ姿を見て、ますます、冷え冷え、寒々とブルーになっていく葵の上、ああ、なんという悪循環・・・。そんな二人の間に子どもができるまで、10年もの歳月が必要でした。
 前回、光源氏をイエローと書きましたが、イエローとブルーがミックスされるとグリーン(緑色)になります。グリーンは、調和の色です。子どもを身ごもったことで、ようやく光君と葵の上の間に調和が生まれ始めます。
 でも、ここで、彼らが仲むつまじく平和に暮らしました、ちゃんちゃん♪では、紫の上をはじめとする豪華女性陣が出てこれない・・・なんと、葵の上は、夕霧を産み残して死んでしまいます。しかも、六条御息所と思われる生き霊に取り憑かれて!!まあ、六条御息所は葵の上が自分よりも光君に愛されていることに嫉妬して取り憑いたのでしょうから(ちなみにグリーンは嫉妬を意味する場合もあり)、最後に光君に愛され、その愛を受け入れることができたのはせめてもの救い、だと思いたいものです。

☆次回は「紫の上」を取り上げます。
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by sound-resonance | 2010-01-25 19:11 | 色で読む源氏物語 | Comments(0)