嫉妬は身を滅ぼす?「ブーリン家の姉妹」
お金とか権力とか名誉とかそんなもののために結婚しなくちゃいけない身分じゃなくてよかった〜っ、やっぱり好きな人と普通に一緒にいられる庶民が一番ね!と月並みすぎる感想を抱きつつ、この映画はスルーしようとしていたのですが、改めてDVDのジャケットを見て、何でも「色眼鏡」で見る悪い癖が・・・発動してしまいました(笑)
DVDジャケットには、アンブーリン(姉)、メアリーブーリン(妹)、ヘンリー8世の3人が写っているのですが、アンとメアリーの着ている衣装が、それぞれ緑(アン)と赤(メアリー)なのが、とても面白いです。
もちろんビジュアル的な効果をねらっての配色なのだとは思いますが、アンの着用している衣装の鮮やかな緑が、彼女の身を滅ぼした「嫉妬」を象徴しているような気がします。イギリスを代表する劇作家であるシェイクスピアも「オセロ」の中で嫉妬の感情を「green-eyed monster(緑の眼をした怪物)」「ヴェニスの商人」の中で「green-eyed jealousy(嫉妬で緑色になった目)」と書いているそうなので、案外その辺りを意図した配色なのかもしれませんね。
「嫉妬」とは、自分と異なるもの、自分から見てよく見えるもの、自分が欲しい(欲しかった)ものなどを持っている相手を快く思わない感情(Wikipediaより)を表し、緑のネガティブな側面です。
詳しいストーリーについては、映画を直接見ていただければ、と思うのですが、アンブーリンがあれほど「王妃の座」にこだわったのは、自分がターゲットとしていた男(国王ヘンリー8世)を自分より先に奪った妹(メアリー)に勝ち、自分のプライドを満たすためためには、男を奪い返すだけでは足りなくて、愛人という立場に甘んじていた妹よりも上の立場、すなわち王妃になるしかなかったから、ではないでしょうか。
自分と他人を比較するところから初めて嫉妬は生まれます。
アンは、ヘンリー8世にローマカトリックから離脱させ、イギリス国教会を作らせ、前王妃と離婚させ、念願の王妃になります。彼女は、自らへの愛を証明させるために、その後のイギリスの運命を変えるような大改革を国王にさせたのです。
でも、映画の中の彼女はちっとも幸せそうではありませんでした。
アンがメアリーに嫉妬した瞬間から、彼女は自分が幸せだということを他人に証明するための外側のゲームに自分の内側の幸せを明け渡してしまったのです。そこには「妹に勝ったアン」はいても、アン自身はいません。ヘンリー8世にとっても、アンを自分のものにした時点でゲームセット。関心がすぐに他の女性に移ってしまったのも無理はないような気がします。そして、因果はめぐり、彼女の栄華ははかなく短く散ったのでした。
「愛は分けられない」ジャケットのコピーがなんだか切ないです。愛が分けれるものなのか、そうでないものなのかは別として、赤い衣装を着た妹のメアリーは、運命を受け入れ、結果的には姉とは対照的に平穏な人生を送りました。「受け入れる赤」については、また改めてどこかで書きたいと思います。蛇足ですが、偶然にもスカーレット(緋色)ヨハンソンが妹のメアリー役をやっているというのもちょっと面白いですね。
それにしても、ヘンリー8世ってどんな男だったんでしょうね?女のためにイギリス史を変え、アンブーリン以降は王妃をとっかえひっかえした粗野でとんでもない暴君かと思いきや、意外にも教養あふれるインテリだったという一面もあるそうで、ますます謎が深まるのでした。
「ブーリン家の姉妹」2008
by sound-resonance | 2010-03-10 23:08 | 観る・読む・聴く