人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ロックフェラーじゃなくっても、アートコレクターになれる!

「ハーブ&ドロシー」という映画を見ました。
 夫(ハーブ)は郵便局員、妻(ドロシー)は図書館司書。妻の収入を家計にあてて、夫の収入のすべてをアート購入に充てる。アート作品の購入に当たって考慮することは、自分達の予算で購入可能な値段であることと、1LDKのマンションに入るサイズであること、それだけ。展覧会に通って、作家と直接話して、作品をとにかく食い入るように見つめて、気に入ったら買う。作家が無名か、有名かは関係なし。そうやって集めた現代アートの作品が、マンションの空間を埋め尽くし、ついに「楊枝1本も入る空きがなくなった」時、作品の数はなんと4000点を超えていた・・・。

 このご夫婦、とにかくチャーミングです。ドロシーさんは、ハーブさんに会うまでは、アートにはそれほど詳しくはなかったようですが、ハーブさんの手ほどきを受けて、少しずつアートに興味を持ち始めます。でも、「買う!」って決めるのは、ほとんどの場合ハーブさんのようで、ドロシーさんは、その支払いの計画を含めて、実務面で彼をサポートしていたよう。映画の中で確かドロシーさんのお姉さんが、綺麗に片付いた広々とした部屋のソファに座って「あの子達にも、こういう生活をして欲しかったわ」なんて冗談なのか本気なのかわからない口調で言ってましたが、確かに「自分の収入を全部アート作品に使っちゃう夫」は考えようによっては「困ったさん」かもしれない。
 でも、ドロシーさんは、ものすごく楽しそうなのです。ハーブさんのことが好きで好きでたまらないのでしょうね。ハーブさんと一緒にあらゆる場所に足を運び、美しいものを見て、いろんな人達とおしゃべりして、そんな生活を心底楽しんでいる感じがひしひしと伝わってきます。ハーブさんの審美眼は時に厳しくて「この作品群の中にこの作品は要らない」だとか、厳しいことも言うのだけれど、ドロシーさんの作品に対するコメントはどれもこれも愛に満ちています。必要のない人にとっては、もしかしたら「がらくた」に見えてしまうかもしれない現代アート作品の良さを問われて「一緒に暮らせばわかります。初めは好きになれなくても、次第に愛着がわくんです」なんて答えてましたが、彼女の原動力って基本的に「愛」なんだなあ、ということが伺えるコメントだと思います。
ロックフェラーじゃなくっても、アートコレクターになれる!_a0155838_23352791.jpg

 4000点を超えたコレクションは、ニューヨークのナショナルミュージアムを中心に、全米の美術館に寄贈されることになります。買った時には安かった作品も、作家の知名度が上がって、その中の2,3点を売れば、大金持ちになれたのに、彼らはそれをしません。お金儲けのために、作品を買ったのではなく、美しいから買ったのだから、トータルでコレクションなのだから、と。でも、投資の対象にする人達を批判することもしないのです。僕らは、それをしない、それだけ。人に対して、自分たちの意見を声高に主張しない、自分たちのやりたいことをやるだけ。・・・かっこいいです。今は定年を迎えて、退職している彼らの老後の生活の心配をしたナショナルギャラリーが、生活の保障のためにある程度の謝礼をしたそうなのですが、それも、周りの意図はおかまいなしに、アート作品の購入費にあてられてしまったそうで・・お見事。あっぱれな生き方ですよね。(そのシーンで館内に笑いが起きてました。そういう所は関西のいいところですよね、私も思わず笑っちゃいました)そして、彼らは、今までどおり、1LDKのマンションで、ネコや亀や魚たちと一緒に暮らしているのです。好きなことをやっていいんだ、それであんなに楽しく暮らしてもいいんだ・・・っていうことを伝えてくれる映画でございました。

 パンフレットは、きらきらぴかぴかのマゼンタピンク色。海外向けのパンフレットも同じ色なのかはわかりませんが、特にドロシーさんにぴったりの色ですね。

「ハーブ&ドロシー」公式サイト

by sound-resonance | 2010-12-16 23:45 | 観る・読む・聴く