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東京が日がな一日、信心の事を考えている老婆らを必要とする

やなぎみわさんが好きです。

やなぎみわさんって、女性の視点から「ステレオタイプ」や「プロトタイプ」の様々な女性像をビジュアル化する作家さん。「エレベーターガール」とか「マイグランドマザーシリーズ」やなんかが有名です。
女性の視点から、なんていうと、下手をすると、自己完結っていうのか、「女だけがわかればいいのよ、わかるよね?」とか「体験した人しかわかんないと思うけど・・」的な内輪受けの雰囲気が漂いがちなんだけど、彼女の作品はそんなところがなくて、どこか男前というのか、同性に対する絶妙な距離感があって、そこが私は好きだったりします。同性に対する距離感=自分に対する距離感、かもしれませんね。
写真の作品からスタートして、近年は演劇にも進出されているようで、クラウドファンディングシステムを活用した新たな演劇プロジェクトをスタートされています。

その名は、「デコプロジェクト」

トレーラーに演劇の舞台装置を作って、トレーラーごと各地を公演して回ろうっていうもの。
演劇が、全国各地を公演して回るっていうのは、日常的にある光景だけど、舞台に車輪がついていて、舞台ごと各地を回るっていうのは、少なくとも今の日本では、前代未聞のスタイルのような気がします。でも、台湾では、デコレーショントレーラーによる移動舞台っていうのは、わりとポピュラーなんですって。
今回のトレーラーも台湾で製作されて、日本に輸入されたもの。
横浜のトリエンナーレに出展されていたので、見てきました。

トレーラーが開いて、舞台になっていきます。

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上演される予定の作品は「日輪の翼」という作品。中上健次さんの小説が原作です。

中上健次の作品って、これまで読む機会がなくて、他の作品を読んでいないし、読みなれていないからか、ちょっと読みづらい感じもあったのだけど、なんだか不思議な読書感でした。
あらすじを大雑把に言ってしまうと、住んでいた「路地」を追われた、若者と老婆が盗んだ冷凍トレーラーで日本の聖地をめぐる、っていう話なんですが、男と女、若さと老い、聖と俗、地と天、清らなものと淫らなもの、等々考え付く限りの対極に位置すると考えられているモノ、概念が、表裏一体であって、反転したかと思うと、再び反転し、めまぐるしく入れ替わって回転し、疾走する、みたいなイメージが、不思議と浮き上がってきます。

冷凍トレーラーが風を切って地を走る時、ヒューヒューという音を聞いて、トレーラーに不法に搭載された老婆達は、それを「空を飛ぶ」と表現します。お話の中に蛇が出てくるんですが、地をはう蛇に羽が生えて、龍になり、空を飛ぶイメージが、冷凍トレーラーが「飛ぶ」イメージと重ねられています。あるいは、蛇は、めまぐるしく反転し、回転する対極と重なって、しっぽをくわえたウロボロスの蛇となり、トレーラーの車輪となって、若者と老婆達を運びます。

トレーラーの外壁に龍が描かれているのは、そういった訳だったんですね。
蛇自体が形づくるウロボロスの輪は、「日輪」のイメージとも重ねられているのでしょうね。

やなぎみわさんが、どうしてこの作品を取り上げようと思ったのか、本当のところはわからないけれど、既存の意味が解体していく、でも、解体するだけじゃなくて、対極のモノが回転して疾走するみたいなイメージに魅力を感じられたのかな、と思いました。「女」を経て、年老いて異様な格好をした老婆達が、聖なる少女のように転換していく感じやなんかも、これまでのやなぎさんの作品に通じるところがあるかもしれません。トレーラーに描かれたマゼンタ色の龍は、そういうありとあらゆる要素を含んだ「女性」をあらわしているようにも見えてきます。

でも、この小説、実際に演劇にするとなると、とっても難しそう。移動するっていうところは舞台そのものが体現しているとしても、セクシャルな場面もけっこう多いので、そのあたり、どういう風に表現するのか、さりげない老婆の会話でどう説得力を持たせるのか、興味深いです。

トレーラーを台湾で製作して、輸入して、となると莫大なお金がかかって、それをみんなで応援してくださいっていうことで、クラウドファンディングシステムを利用された今回のプロジェクト、私も、ちょっとだけ参加してみました。龍の羽のどこかに、「透音」の名前を入れてもらえます!クラウドファンディングシステムって、美術が好きだけど、パトロンになれるほどお金持ちじゃないっていう一般市民が、自分の懐具合にあわせて、美術作品に参加できる画期的なシステムだと思います。
実際の劇が上演されるのは、2年後の予定で(!!)まだまだ始まったばかりのプロジェクトですが、楽しみに動向を見守りたいと思います。

by sound-resonance | 2014-12-25 23:44 | 観る・読む・聴く