ピタゴラス音律と平均律

私は、小さい頃ピアノから転じてヤマハのエレクトーンを習っていたので、自分で調律をする必要もなく、電子楽器なので、調律が狂うわけでもなく、そこにある「音」に対して、なんの疑問も感じていませんでした。鍵盤を押せば、音が出てくる。同時に押せば和音が出てくる、当たり前、みたいな。よく映画音楽とか、アイドル歌手の歌う曲なんかのポピュラーな曲をエレクトーンで演奏していましたが、「原曲」とは違う調に転調された曲を演奏するのにも、なんの疑問も抵抗もなかったし、アレンジをする時には、よく転調のテクニックなんかも使っていました。

が、しかし。

それって、平均律で調律された音階だからできる技、だったんですね~。(いまさら、かい!)
ピアノやキーボードなど、今現在使用されている鍵盤楽器は、1オクターブの中に、黒鍵含めて12個の「音」があります。もちろん音も周波数なので、1オクターブの中に無限の「音」の可能性はあるわけですが、この1オクターブの中に12個の音を定めて、その音の組み合わせで「音楽」が成り立っているわけです。でも、12個の音の幅(距離)をどうとるのか、には様々な方法があります。

例えば、ピタゴラス音律は、完全な調和(ハーモニー)を奏でる振動数3:2の比率の完全5度を重ねて作られています。でも、そういう作り方をしていくと、1オクターブとして出てくる音が約23.46セント(約1/4半音)ほどずれてしまうんですね。このずれのことをピタゴラスコンマといいます。
でも、1オクターブは、同じ音におさめたい、ということで、基音(と同じ音)を採用すると、コンマ分の幅(距離)がそこだけ短くなってしまいます。
基音はどこからでも始められるので、ピタゴラスコンマの位置は、自由に決められますが、コンマの出てきた位置の完全五度は、ハーモニーを奏でずうなりを生じてしまいます。ということは、そのうなりが出る五度は演奏では使えないわけで、演奏できる調は限られてしまうわけです。
そんなピタゴラスコンマを解消したのが、平均律(等分平均律)です。平均律では、1オクターブを均等に12等分してあります。なので、1オクターブの中にある音と音の幅(周波数の比)は全く同じ(2の12乗根)です。そうすると、極端なうなりを出す「使えない完全五度」はなくなって、どんな調でも演奏できるようになります。黒鍵盤の音ー例えば、C#とD♭ーも同じ音になります。でも、逆をいうと、どの完全五度も「完全」なハーモニーを奏でなくなっているわけですね。そのズレは、私たちの耳にはほとんど判別ができないくらいのズレで、ほとんど支障がないとして、現在では、平均律が調律の主流になっています。このおかげで合奏が容易になりました。ピアノとオーケストラのコラボっていうのも、平均律というルールの上で実現可能だったんですね〜。音楽がバラエティに富み、ポピュラーになっていくためには、そういったある種の「折り合いをつけること」も必要だったのでしょうね。あるいは、平均律採用から、音楽も「科学」に寄っていったといえるのかもしれません。

ピアノを平均律に調律する、その辺りの大変さを調律師本人がつぶやくように書き記しているのが「ピアノと平均律の謎」という本。タイトルの割には、謎はイマイチ解けませんでしたが(苦笑)ピアノにおいて、平均律で調律するのがいかに大変かということだけはわかりました。平均律って、フレット式の弦楽器では容易だけど、ピアノでは調律がとても難しいんですって。確かに、高校時代(エレキ)ベースを弾いていた時、ユニゾンと、オクターブの音のうなりをなくすことで、調律をしていました。それさえすれば、後はフレットの位置で、他の音はおのずと決まりますもんね。でも、ピアノの場合、完全5度、完全4度なんかを使いながら、オクターブ以外のひとつひとつの音のすべてを(厳密にいうと)「調和のない音」に仕上げていかないといけないわけですから、大変だと思います。逆にいうとだからこそ、調律師というプロが存在するのでしょうが。平均律というのは、調律のひとつにしかすぎなくて、新しい可能性がたくさんあるということを著者は本の中で述べています。「加減していない無限のハーモニーをもつ音階を本当に手に入れられるまで、楽器も心も進化させつづけていくことになるだろう」と著者は言います。著者のいうところの、ピアノにとって、自然な方向が見いだされ、それが当たり前になる時代がくるのかもしれませんね。 
                                 
「ピアノの平均律の謎ー調律師がみた音の世界ー」 アニタ・T・サリバン著 白揚社
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by sound-resonance | 2015-05-08 20:24 | 音色物語 | Comments(0)