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フォーダイト

私のお年頃の頃には、男子は自動車を持っているのが一種のステータスで、ボーイはガールを車でお迎えに行くのが憧れでせっせとお金を貯め、ガールは、ボーイに車でお迎えに来てもらい、送ってもらうことで、自分が大事にされていることを感じる、みたいな、微笑ましいような、めんどくさいような時代がございました。が、今の若い人は車には執着がないようで、車離れがどんどん進んでいるようですね。小さいお子さんがいるご家庭は車があると便利でしょうが、そういった車と、「女子を隣に乗せる車」は全然違うよな、なんて思ったりもします。

それはさておき。今日は車にまつわる色のお話を少し。

私は、石が好きで、今ほど「天然石」や「パワーストーン」のお店が日本になかった頃から、海外に行くとお土産に石や石のついたアクセサリーを買ってきたりして、コレクションとまではいかないものの、なんとなくいつも石に囲まれているような生活をしていたりするのですが、「車」にまつわる石っていうのがあったりなんかするのを割と最近知りました。

その名は「フォーダイト」。
別名、モーターアゲートとも言うそうです。

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なんだか、不思議な縞模様。実は、これ、いわゆる「天然石」ではなくて、人工的に作られたもの。というか、作ろうとして作ったものではなくて、副産物的にできたもの。
「フォーダイト」というのは、アメリカの自動車メーカー「フォード(Ford)」と、「デトロイト(Detroit)」、瑪瑙(めのう)を意味する「アゲート(agate)」をつなぎあわせてつくられた造語なんだそうです。「フォード」社は、デトロイト市で、車の製造を開始し、デトロイトは一大自動車産業都市として発展しました。自動車は、その昔、手作業で塗料を吹き付けていたのだそうで、その時に飛び散った塗料が工場のあちこちにたまっていきました。塗料は、高温処理で固められ、車に定着させましたが、同時に、周辺に飛び散った塗料も、固められ、層になっていきました。ある時、層があまりにも分厚くなって、作業の邪魔になったので、撤去することになりましたが、撤去した層を研磨してみたところ、模様が美しいということで、人工鉱物「フォーダイト」として、販売されるようになったのだとか。

工場のあちこちに飛び散った塗料の固まりを研磨してみようという最初の発想をした人のセンスってすごいな、と思ったりしますが、それは、「天然石」も同じで、どんな研磨師さんと出会うかによって、石が個性を引き出されて一層輝きだすか、平々凡々の石で終わっちゃうかが決まっちゃったりするんだろうなあ。

ま、それはさておき、「フォーダイト」って、「フォード」っていう会社名がついているだけに、「フォード社の工場でできた副産物」なのかと思ったら、どうやらそうでもないみたいです。ウィキペディア等からの推測でしかありませんが、フォードといえば、製造過程の作業効率かを徹底的に進め、当初お金持ちの趣味、道楽でしかなかった自動車を、大量生産によって価格を下げ、大衆にまで普及させた人(会社)。自動車産業の発展の原点とも言われる「T型フォード」は1908年の製造開始から1927年の製造停止まで、実に20年近く製造され続けたロングセラーでしたが、大量生産体制が整ってからのT型フォードの車体の色は黒一色のみだったそうです。黒はペンキが早く乾くからっていうのが現実的な理由だったみたいですが、フォードさんは、「黒で販売すれば、買った人が後から何色にでも塗れる」みたいなコメントも残しているのだとか。

T型フォードの登場によって、自動車は大衆のものになりましたが、創業者のフォードがT型フォードにこだわっている間に競合社が現れ、車は頻繁にモデルチェンジするようになり、その辺りから車体の色のバリエーションもどんどん増えていったようです。一生ものの車から、「着替える」感覚に移っていったんですね。大衆の目は、カラフルで、常に変化する他の会社の自動車に移り、フォードの車は売れなくなってきます。そこで、1927年に、ついに「T型フォード」は姿を消し、フォード社は新たな市場開拓へと乗り出すのです。

新たな市場開拓に乗り出してからのフォードの車はどんどんカラフルになっていったのだと思うので、もちろん「フォードの工場から産出された『フォーダイト』」っていうのもあるんだとは思いますが、フォーダイトってどちらかというと、「自動車産業の一大地、デトロイトの工場で産出された石」くらいにとらえておく方がいいみたいです。フォード好きな方が、「これが、フォードの工場の歴史の産物か・・・」みたいな感覚で、フォーダイトを購入すると、ホントはGMの工場からの産物だったりして悲しい結果になりそう・・・(笑)
とはいえ、アメリカにおける自動車の車体の色の歴史が、フォーダイトからかいま見ることができるというのは確かで、そういった意味では自動車好きの方に人気というのもうなづけますね。ついついカラフルなものの方に目がいっちゃいますが、黒とか茶色とか地味めの色のフォーダイトの方が年代ものとして、希少価値が高いのだとか。「色の層が綺麗」っていうフォーダイトの趣旨から大幅に外れていくような気もしますが、もし、黒一色のフォーダイトっていうのがあるとすれば、それはそれで自動車産業の幕開けを証言する石として、さらに希少価値が高いかも・・・(笑)

今は、車体への塗装は静電気の力で塗料を吸着させる方法に変わっていて、塗料が工場に飛び散って体積するという現象は起きないようです。もう産出されない、というのもフォーダイトの魅力かもしれませんが、悪知恵を働かせて、「模造」するのは比較的容易っぽい・・(笑)ま、その辺りは天然石も同じですが、安易に飛びつくことなく、その石にまつわるストーリーそのものも含めて納得した上で手に入れたいものですね。

→いろんなフォーダイトが載っています

by sound-resonance | 2016-08-20 20:20 | 音・色あれこれ